2010年8月16日月曜日

西洋と東洋の融合 —カスティリオーネ《十駿犬茹黄豹》—

2枚目はこの絵。ジュゼッペ・カスティリオーネの《十駿犬茹黄豹》。


この絵は台湾の故宮博物院に行ったときに特別展示されていたもの。想像していたよりもずっと大きくてびっくりした記憶があります。

カスティリオーネ(1688〜1766)はミラノ生まれのイエズス会宣教師。中国に渡り、清朝の宮廷画家として、康煕帝、雍正帝、乾隆帝に仕えた。中国名は「郎世寧」。

さてこのワンちゃんですが、すらっとした体躯にきれいな赤色のつやつやした毛並みで、見るからに血統のよさそうな感じがします。実際、満臣侍郎三和という人が皇帝に献上したという名犬だそうです。黄色い首輪をしていますね。

彼の視線の先をたどってみてください。一羽の黒い鳥が枝にとまっています。尻尾をちょんとあげて前のめりになって嘴を開いて、、、犬と会話しているようにしか見えない(笑)白いおなかがぷっくり膨らんでいて愛らしいですね。

そのまま視線を下げていくと、木の幹に沿って赤い花、もう少し下に薄紫の花びらを持つ花が咲いています。葉も花弁も細かく描き込まれて、色も濃淡を使い分けて繊細に表現しています。濃淡といえば、視線をまた木の上に戻していただくと、葉っぱの色にもその技法が使われていることがわかります。幹にも陰影が見られますし、よく見るとワンちゃんの体も濃淡を使い分けて立体的に描かれています。

それでは、背景を見てみましょう。

・・・あれ、何もない。
あんなに細かくディテール描いてたのに。疲れた・・・?

丘でしょうか、ラフな線が一本ふにゃふにゃと引かれているだけの地面の向こうには、何も描かれていません。無の空間。そして右上には、満州語、モンゴル語、中国語で書かれたこの絵の題名が浮かび上がっています。これは西洋絵画にはない、独特の構図の取り方です。

カスティリオーネは西洋と中国の両方の技法を習得し、中国に西洋画の技法を伝えた人物と言われています。このワンちゃんの絵は、掛幅というきわめて中国らしい画面の上に、西洋画と山水画の技法を使って描かれた珍しい作品です。つまり、犬や鳥や草木は西洋風、地面や構図や画材は中国風というわけです。

中国とヨーロッパがダイレクトに繋がり、宣教師画家という特殊な人々が宮廷で腕をふるうこの時代ならではの作風であると思うと、興趣が尽きません。

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